ただ、男性ホルモンは精巣(睾丸)から生成されるだけではなくて、副腎からも男性ホルモンの類似物質(アンドロゲン)が出ているため、これも抑えないといけない。それで抗アンドロゲン剤でこれも抑える必要がある。
ホルモン療法は、男性ホルモン(テストステロン)も、アンドロゲンも抑える療法なので、男性としての機能は、仮に物理的には残っていても、殆ど機能しないことになる。男性ホルモンが手術や薬によって去勢されれは、当然勃起や射精に影響が出るだろうし、もし出ないのであれば、男性ホルモンが除去されていない可能性が高いということになる。
ということで、ホルモン療法や、その後のエストラサイト(女性ホルモン剤)は、男性の機能に大きく影響する。エストラサイトは女性ホルモンなので、乳房が出てくるなど、外見的な面まで作用していく。どちらも、男として長く生きてきた人間にとっては厳しい選択だ。命には代えられないとしても。
プロゴルファーの杉原輝雄が、前立腺癌と診断されて、一時ホルモン治療を拒んだという話を新聞で読んだことがある。男性ホルモンを除去すると、男として闘争本能がなくなるから、プロゴルファーとして続けることができなくなってしまうから、というのが理由だったように記憶している。命より、仕事、男としての機能を選んだということなのだろう。(がんサポートに詳しい記事が載っていました。)
映画監督の深作欣二も、前立腺癌と診断され、治療を拒んだため、手遅れとなったという話を読んだ記憶がある。
ある友達に、ホルモン療法を始めたこと、いろいろ副作用があるということを話したら、「それで、お前、今も勃起するの?」と気楽に聞かれ、とっても落ち込んだことがある。男だから、男性機能を失う、さらには体つきも女性化するというのは、深刻で悲しい事態なのだけれど、何の思いやりもなく、そう聞かれ、とてもがっかりした。乳癌や子宮癌を患う女性も、同じような複雑な気持ちを持つのではないだろうか。患者以外の人間にとっては、男らしさや女らしさを失うことが、どんなに本人にとって重大なことか、気がつきにくいのかもしれない。命のが大事だろうと言われてしまえばそれまでだし。でもね、旦那さんがホルモン治療を受けた場合、奥さんは、男性機能について、旦那さんと会話できるのだろうか。奥さんが乳癌の患者だったとして、ホルモン治療を受けているとき、夫とはどんな会話をするのだろうか。或いは全く触れないのだろうか。
今飲んでいるアビラテロンも、男性ホルモンを抑える薬なので、男性としての機能は大きく影響を受けている。性生活など、最早ないし、死ぬよりはましと諦めているので、全く構わないのだけれど、もし構う人がいたとすれば、その人にとっては深刻な治療法だろうと思う。
男性ホルモンの抑制は性格にも影響するような気がする。昔はときたまキレたり、激怒して怒鳴ったり、仕事でも、闘争心というか、ものすごく挑戦的な気持ちがあったと思うけれど(会社では若い頃から生意気な奴と言われ続けてきた)、今は怒ることなし。闘争、挑戦など、全くそういう気持ちにならない。面倒くさいことは全て回避。高望みはしない。苦労など考えたくも無い。揉め事には関わらない。平穏で静かな生活がしたい。女性には怒られそうだが、なんだか女性的な性格になったような気がする。
結構微妙で深刻な問題なのに、医師は治療の方が重要と割り切っているし、それについては、患者は諦めざるを得ないのだが、こうした面のつらさについてはあまり語られていないような気がする。
まるで花火のような国立劇場大劇場のシャンデリア。